オペレーティングシステム

2.2. オペレーティングシステム#

オペレーティングシステムoperating system; OS)は、コンピュータ全体を管理し、人間と機械の仲介役を果たす基本的なソフトウェアです。キーボードやマウスからの入力を受け取り、それを適切なアプリケーションに伝え、処理結果をディスプレイに表示したり、メモリやストレージに保存したりする役割を担っています。普段は意識することの少ない裏方のような存在ですが、あらゆるソフトウェアが動作するための土台であり、どの OS を選択するかは解析の効率に直結します。

現在、コンピュータの世界では Windows、macOS、そして Linux 系 OS が主流となっています。スマートフォンの世界で Android や iOS が使い分けられているように、コンピュータの OS にもそれぞれ得意分野があります。特に macOS と Linux は、1960 年代に開発された UNIX という OS の設計思想を継承しており、内部の仕組みが似通っています。そのため、コンピュータに文字で命令を送るコマンドcommand)を用いた操作方法がほぼ共通しており、バイオインフォマティクスのツールを動かす上で非常に強力な共通基盤となっています。

一方で、バイオインフォマティクスのソフトウェア開発の歴史を紐解くと、その多くが macOS や Linux 上で動作することを前提に発展してきました。Windows に直接対応していないツールも珍しくありません。そのため、研究者は、マウスによる直感的な グラフィカルユーザインタフェースgraphical user interface; GUI)を利用した操作だけでなく、黒い画面に文字を打ち込んで命令を出す キャラクターユーザインタフェースcharacter user interface; CUI)にも慣れることが求められます。

2.2.1. Linux#

Linux 系 OS には Ubuntu や Debian、Red Hat など、用途に応じたさまざまな種類が存在します。これらをまとめてディストリビューションdistribution)と呼びます。なかでも Ubuntu は、初心者にも扱いやすい画面設計でありながら強力な機能を備えており、インターネット上にも解決策が豊富に蓄積されているため、バイオインフォマティクスの入門には最適です。

Linux の最大の強みは、大規模な計算や並列処理への適応力にあります。研究室にあるクラスタ計算機や、数千台規模のコンピュータをつないだスーパーコンピュータのほとんどは Linux で動いています。バイオインフォマティクスの研究では、手元のコンピュータで解析のテストを行い、本番の大規模データ解析はネットワーク越しに Linux サーバーへ投入するという流れが一般的です。このとき、サーバー側にはマウスで操作する画面が存在しないことが多いため、Linux のコマンド操作こそが研究者にとっての共通言語となります。

Linux のコンピュータを用意する方法としては、Windows が搭載されたコンピュータを購入し、Windows を削除して Linux をインストールし直す方法や、Windows と Linux のデュアルブート環境を構築する方法が一般的です。Linux 搭載のコンピュータを購入できる場合もありますが、Windows 搭載機に比べると選択肢は限られています。なお、デュアルブート環境では、コンピュータの起動時に使用する OS を選択できるという利点があります。しかし、Windows Update が実行された際に Linux が起動できなくなるなど、トラブルが発生しやすい点には注意が必要です。そのため、デュアルブートを選択する場合は、仕組みをある程度理解した上で運用することが望まれます。

2.2.2. macOS#

Apple 社が開発する macOS は、美しいデザインと高い操作性を備えながら、その内部は本格的な UNIX 系 OS であるというユニークな立ち位置を築いています。Microsoft Office などの事務用ソフトウェアが快適に動作する一方で、プログラム開発やデータ解析のための環境も比較的容易に整えることができます。そのため、1 台のノートパソコンでデータ解析から論文執筆までを完結させたいと考える研究者にとって、macOS は非常にバランスの取れた選択肢です。バイオインフォマティクス分野においても多くの研究者に支持されています。

2.2.3. Windows#

Microsoft 社が開発する Windows は、世界で最も普及している OS であり、Microsoft Office を用いた事務作業や論文執筆においては圧倒的な利便性を誇ります。かつてはバイオインフォマティクス解析には不向きとされていた時代もありましたが、現在では状況は大きく変わっています。その立役者が WSL2(Windows Subsystem for Linux 2)と呼ばれる仕組みです。WSL2 を利用することで、Windows 上に Linux 環境を構築し、Windows を起動したまま Linux 専用の解析ツールを同時に動かすことが可能になりました。これにより、OS の違いを理由に解析を諦める必要はほとんどなくなり、Windows の快適な操作性を保ったまま、バイオインフォマティクス解析環境を構築できるようになっています。

とはいえ、学位審査のプレゼンテーション中に突然 Windows Update が始まり、スライドより先に人生が再起動される事態だけは避けたいところです。そのリスクも理解した上で、あなたは Windows を選びますか。