1.2. 細胞#

細胞cell)は、細胞膜cell membrane)に囲まれており、生物を構成する基本単位です。その内部には、遺伝情報である DNA が含まれています。その DNA が通常 1 本の環状二本鎖 DNAcircular double-stranded DNA)として細胞内のヌクレオイドnucleoid)と呼ばれる領域に局在している細胞を原核細胞prokaryotic cell)と呼びます。これに対して、DNA が核膜nuclear envelope)に囲まれた細胞核nucleus)の中に収納されている細胞を真核細胞eukaryotic cell)と呼びます。

1.2.1. 原核細胞#

原核細胞は比較的単純な構造を持ち、細胞内には膜で区切られた小器官がほとんど存在しません。生命活動に必要な分子は細胞内に遊離した状態で存在し、代謝や遺伝情報の処理が行われます。

原核細胞 1 つからなる生物を原核生物prokaryote)と呼びます。原核生物の構造は比較的単純ですが、過酷な環境にも耐えうる能力を持ち、地球上のさまざまな環境に生息しています。代表的な原核生物には細菌bacteria)や古細菌archaea)があります。

原核生物は、基本的には原核細胞 1 つだけで生命体を形成しますが、複数の原核生物が集まって協調的な集合体を形成することもあります。例えば、原核細胞が集まって形成されるシアノバクテリアcyanobacteria)は光合成を行う能力を持ち、地球の酸素供給に重要な役割を果たしています。また、粘液細菌(Myxobacteria)では、通常は単独で生活していますが、餌が不足すると数万から数百万個体が集合して子実体と呼ばれる構造を形成し、胞子を作ります。このように、原核生物でありながら社会性を示す例も知られています。

1.2.2. 真核細胞#

真核細胞は、細胞膜、細胞核、細胞質cytoplasm)を基本構造としています。細胞膜はリン脂質二重層phospholipid bilayer)で構成されています。リン脂質二重層は、リン脂質分子が 2 層に並んで形成されており、流動的であることが特徴です。そのような細胞膜には、膜タンパク質membrane protein)が埋め込まれており、細胞外からの信号の受容、物質の輸送、細胞同士の接着など、多様な機能を果たしています。

細胞核は細胞の遺伝情報を保存し、制御する役割を担っています。細胞核も細胞膜と同様に、リン脂質二重層からなる核膜で囲まれています。細胞核の内部では、DNA とタンパク質からなるクロマチンchromatin)が存在し、遺伝情報の複製や転写が行われます。

また、細胞質は細胞膜と細胞核の間に存在するゲル状の物質であり、細胞内の化学反応が行われる場となっています。細胞質には細胞小器官organelle)と呼ばれる特定の機能を持つ構造物が浮遊しており、さまざまな生命活動に関わっています。

真核細胞からなる生物を真核生物eukaryote)と呼びます。真核生物には、細胞 1 つからなる単細胞生物unicellular organism)と、多数の細胞が協調して機能する多細胞生物multicellular organism)があります。単細胞生物には、藻類、菌類、原生生物などが含まれます。藻類では珪藻やクラミドモナス、菌類では出芽酵母や分裂酵母、原生生物ではゾウリムシ、ミドリムシ、アメーバなどが知られています。一方、多細胞生物には動物、植物、菌類などが含まれます。多細胞生物では、同じゲノムを持つ細胞であっても、細胞の種類や役割は大きく異なります。神経細胞、筋細胞、上皮細胞などは形態や機能が大きく異なりますが、これは遺伝子発現の違いによって生じています。このような細胞の多様性は、発生や分化の過程で形成されます。近年では、単一細胞レベルで遺伝子発現を解析するシングルセル解析が急速に発展しており、細胞集団の不均一性や分化過程の詳細が明らかになりつつあります。

1.2.3. 細胞小器官#

真核生物の細胞内には、核膜に包まれた細胞核のほかに、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、葉緑体など様々な細胞小器官が存在します。これらの細胞小器官はそれぞれ独自の機能を持ち、タンパク質の合成や代謝などを担っています。また、細胞小器官の多くは膜で囲まれており、膜を介して物質の輸送や情報伝達が行われています。以下に主要な細胞小器官とその特徴を示します。

細胞小器官

特徴

細胞質基質cytosol

細胞質基質は、細胞内で細胞小器官以外の空間を満たす部分です。水を溶媒として、様々な可溶性タンパク質、糖、脂肪酸、アミノ酸核酸などが溶け込んでいます。また、細胞骨格cytoskeleton)と呼ばれる繊維構造が張り巡らされ、原形質流動cytoplasmic streaming)などを通じて物質輸送に関与しています。

細胞核nucleus

細胞核は核膜によって覆われ、内部にはクロマチンが含まれ、遺伝情報の保存や転写が行われます。核膜には核膜孔と呼ばれる構造が多数存在し、核内外での物質交換や情報伝達の通路となっています。また、細胞核内には核小体と呼ばれる領域が存在し、rRNA の合成が盛んに行われています。

小胞体endoplasmic reticulum

小胞体は粗面小胞体と滑面小胞体の 2 種類に分けられます。粗面小胞体は核膜近傍に多く存在し、膜が核膜と連続している部分もあります。その表面にはリボソームが付着し、膜タンパク質や分泌タンパク質の合成が行われます。滑面小胞体は脂質合成やカルシウムイオンの貯蔵などを担います。

ゴルジ体Golgi apparatus

ゴルジ体は扁平な袋状構造が密に重なったオルガネラです。核側からシスゴルジネットワーク、シス嚢、中間嚢、トランス嚢、トランスゴルジネットワークの 5 層に分けられます。各層でタンパク質に対する糖鎖付加、脂質付加、リン酸化など様々な修飾が行われます。

リソソームlysosome

老朽化した細胞成分や、オートファジーやエンドサイトーシスによって取り込まれた物質を分解します。内部は酸性に保たれ、多様な加水分解酵素を含み、核酸、タンパク質、多糖、脂質などを分解します。

ペルオキシソームperoxisome

脂肪酸の酸化、コレステロールや胆汁酸の合成、アミノ酸やプリンの代謝などを担います。これらの反応はオキシダーゼによって進行し、副産物として過酸化水素が生じます。この過酸化水素はカタラーゼによって分解されます。

ミクロボディmicrobody

直径はおよそ 0.2–1.5 μm の単膜構造の細胞小器官です。グリオキシソームやペルオキシソームなどが含まれます。

ミトコンドリアmitochondrion

内膜と外膜からなる二重膜構造を持ち、自己複製能を有します。内膜は複雑に折れ曲がり、クリステと呼ばれる構造を形成します。内側の空間はマトリックスと呼ばれ、クエン酸回路が存在して NADH などが生成されます。内膜上の電子伝達系では NADH や FADH2 を利用して ATP が合成されます。

動物細胞と植物細胞では、存在する細胞小器官に違いがあります。例えば、植物細胞には葉緑体、液胞、細胞壁が存在しますが、動物細胞にはこれらの構造は存在しません。

細胞小器官

特徴

色素体(プラスチド)plastid

植物に存在し、光合成、物質の貯蔵、化合物の合成などを行うオルガネラです。葉緑体や白色体などに分類され、再分化によって相互に変化することがあります。

液胞vacuole

植物細胞の液胞は動物細胞のリソソームに類似した機能を持ち、細胞内成分の分解に関与します。内部は酸性に保たれ、多様な加水分解酵素を含みます。一方、成熟種子に含まれる液胞は貯蔵タンパク質を多量に含みます。

細胞壁cell wall

植物細胞は細胞膜の外側をセルロースからなる厚い細胞壁で覆われています。

1.2.4. 細胞周期#

細胞周期cell cycle)とは、1 個の細胞が分裂して 2 個の細胞を生じるまでの一連の過程を指します。真核生物の細胞は、細胞周期を厳密に制御することで、遺伝情報を正確に複製・分配し、個体の発生や組織の恒常性を維持しています。細胞周期の異常は、がんや発生異常など多くの疾患と深く関係しており、分子生物学およびバイオインフォマティクスの両面から重要な研究対象となっています。

真核細胞の細胞周期は、大きく間期interphase)と分裂期mitotic phase)に分けられます。間期は細胞周期の大部分を占め、G1 期、S 期、G2 期の 3 段階から構成されます。状況に応じて、一部の細胞は G0 期と呼ばれる休止状態に入ります。

周期

特徴

G0 期Gap 0

細胞が分裂を停止し、静止状態にある期間です。多くの分化した細胞は G0 期に入り、条件によっては再び細胞周期に復帰することがあります。

G1 期Gap 1

細胞が成長し、RNA やタンパク質の合成を活発に行う時期です。細胞は外部環境や栄養状態を感知し、分裂に進むかどうかを判断します。

S 期Synthesis

DNA の複製が行われる時期です。染色体は正確に複製され、姉妹染色分体が形成されます。

G2 期Gap 2

分裂に向けた最終準備段階であり、DNA 複製が正しく完了しているかのチェックが行われます。

分裂期Mitosis

染色体が凝縮して娘細胞へ均等に分配され、続いて細胞質が分割され、2 つの独立した娘細胞が形成されます。

分裂期は M 期とも呼ばれて、さらに有糸分裂mitosis)と細胞質分裂cytokinesis)に分けられます。有糸分裂は核内の染色体分配を担い、細胞質分裂は細胞質の分割を担います。有糸分裂はさらに前期、中期、後期、終期の 4 段階に細分されます。

段階

特徴

前期prophase

染色体が凝縮し、紡錘体が形成されます。核膜の分解が始まります。

中期metaphase

染色体が細胞の赤道面に整列し、紡錘体の微小管がセントロメアに結合します。

後期anaphase

姉妹染色分体が分離し、紡錘体の短縮によって両極へ引き寄せられます。

終期telophase

染色体が両極に到達し、核膜が再形成されます。染色体は再び脱凝縮し始めます。